2019年の全日本鍼灸学会学術大会で当院はいろいろな病院で体外受精を行っている患者様に鍼灸治療を併用した結果を報告しました。
不妊鍼灸のエビデンス確立に関しては、世界的にも国内的にも「なぜこれがよいか」ということは未解明な部分が多く、「結果」を見ることから良いだろうということになっているのが現状です。
2019年当時、体外受精に鍼灸併用の妊娠率に関しては玉石混合で、どれが本当かわからないと患者様からのご指摘を兼ねてから受けており、現実離れした異様に高い妊娠率を誇示する鍼灸院が多々見受けられていました。
そもそも、妊娠率はどのように計算したものかも出されていなかったので、数字を操作しようと思えばいくらでもできてしまうので信用ができにくい感がありました。
そこで当院は、可能な限り当時の患者様のデータを集計し、実際の結果をありのまま報告しました。
以下詳細を述べていきたいと思います。
対象は2015年1月~2017年12月の間で、鍼灸治療を行いながら体外受精肺移植を行った患者様70名
平均年齢37.6歳±5.0歳 最高年齢46歳 最年少27歳
総移植周期:145周期
鍼灸治療は肺移植の前後1週間以内に行った患者様で胎嚢確認を妊娠としました。
妊娠率は2つあり、
①胚移植1周期当たりの妊娠率→(妊娠数÷総移植周期)
②累積妊娠率→(妊娠数÷患者数)
よく間違えられるのは上記二つです。妊娠率70%というと、だれもが妊娠するイメージがありますが、その中身は謎です。一回の移植ごとにそこまで妊娠すると錯覚してしまいます。1回の移植ごとの妊娠率と、来院した患者さんごとの妊娠率は全く違います。そういうことをはっきりさせるために、学会で報告しました。
①の結果 胚移植1周期当たりの妊娠率
移植周期合計は145周期でした。一人当たり平均的に約2回は鍼灸に来て移植している計算になります。
妊娠:42
非妊娠:88
不明:15
妊娠率は32.3% 結果不明を含めないと32.3% 結果不明を非妊娠に含めると28.9%
結果不明を非妊娠とするのが学術的なことになりますので、うまくいけば3回に1回は妊娠する可能性があることがわかりました。当院に来る方はほとんどの方が今まで体外受精でも結果が出なかった人ですので、難しい環境ながら鍼灸の可能性が見えたのではと考えられます。
②の結果 累積妊娠率
上記の結果が周期1回ごとの妊娠率あるのに対して、この結果は何人来て何人妊娠したか?という結果になります。
総患者数70名のうち、
妊娠:35名
非妊娠:20
不明:15
妊娠率:不明を含めると50% 不明を含めないと63.6%
鍼灸の効果がどこまで関与しているかは未知数ですが、子宮の血流や自律神経が整いやすくなることが妊娠に良い方向で働いているかもしれません。
実際はこの時点で妊娠していない人も研究期間を過ぎた後に連絡があり妊娠しているケースもありましたが、大体はこのような数字になるのではないかと考えられます。
この結果がほかの鍼灸院でも同じようになるかというと、それがまた鍼灸の困ったことで、鍼灸師によって成果が変わってくるだろうということです。なぜなら鍼灸師によってやり方が全く異なります。同じ治療院に勤めていて、同じようにやっているつもりでも、まったく妊娠しない術者がいたのも経験上私は知っています。
鍼灸師によって、どのような鍼灸を習ったか、経験数、身体の診方、鍼の太さや刺す深さ、考え方、そして天性のセンスまでもが全く異なります。当然結果も全く異なります。
このようなことがエビデンスを作るうえで非常に困難なものにさせています。
過剰な妊娠率をうたう鍼灸院は注意しなければなりません。また、鍼灸がどこまで影響しているかわからないことが多い中、妊娠の成果を鍼灸だけの手柄にすることもよくありません。
鍼灸の学会でも不妊症の研究は日進月歩ですが、こうして現実的な報告をすることで研究の方向性が正しく向かうことを願うばかりです。